ベイラビリティーが増大し,薬物動態の変動が減少する。
(表3参照)
2. 分布
アタザナビルのヒト血清蛋白への結合は濃度によらず86%であった。アタザナビルはα1-酸性糖蛋白(AAG)及びアルブミンに結合し,両者への結合率はそれぞれ89%及び86%と同程度であった。HIV感染患者に軽食とともに400mgの本剤を1日1回,12週間反復投与した試験では,脳脊髄液及び精液からアタザナビルが検出された。脳脊髄液/血漿の濃度比(n=4)は0.0021~0.0226の範囲で,精液/血漿の濃度比(n=5)は0.11~4.42であった。
3. 代謝
アタザナビルのヒトにおける主な代謝は一酸化及び二酸化反応である。その他,代謝経路の寄与としては大きなものではないが,アタザナビルあるいはその代謝物について,グルクロン酸抱合,N-脱アルキル化,加水分解及び脱水素を伴う酸化反応の代謝経路も存在した。血漿中からは2種の代謝物が検出されたが,いずれもin vitroにおいて抗ウイルス活性を示さなかった。ヒト肝ミクロソームを用いたin vitro試験からアタザナビルはCYP3A4による代謝を受けることが示された。
4. 排泄
14C-アタザナビル400mgを単回投与したとき,標識放射能の79%が糞便中に,13%が尿中に排泄された。また,糞便中及び尿中への未変化体の排泄率はそれぞれ投与量の約20%及び7%であった。1日400mgを軽食とともに反復投与したとき,定常状態時での健康成人(n=214)及び成人HIV感染患者(n=13)における消失半減期は約7時間であった。
5. 心電図への影響
健康成人において,アタザナビルを投与した際に血中濃度及び投与量に依存したPR間隔の延長が観察されている。
プラセボ対照試験(AI424-076)において,PR間隔の投与前値からの最大変化の平均値(±SD)はアタザナビル400mg投与群(n=65)で24(±15)msecで,プラセボ投与群(n=67)で13(±11)msecであった。この試験におけるPR間隔の延長は無症候性であった。(【使用上の注意】の項参照)
また,アタザナビルの心電図への影響を72例の健康成人を用いた臨床薬理試験において確認した。アタザナビル400mg,800mg(承認外用量)の経口投与とプラセボ投与を比較したところ,アタザナビルはQTc間隔(Fridericiaの補正を用いた)に用量依存的な影響を及ぼさなかった。抗HIV療法を受けている1793例のHIV感染患者では,アタザナビル及び比較対照薬のQTc延長作用は同等であった。アタザナビルを投与された健康成人又はHIV感染患者のいずれにおいても,500msecを超えるQTc間隔は認められなかった。
アタザナビル400mg1日1回とCYP3Aの基質であるジルチアゼム180mg1日1回投与の臨床薬理試験において,ジルチアゼムの血中濃度が2倍上昇し,PR間隔に対して相加的な影響が認められた。また,アタザナビル400mg1日1回とアテノロール50mg1日1回投与の臨床薬理試験において,PR間隔に対して相加的な影響は認められなかった。
6. 特殊集団
腎障害:
透析を施行していない重度の腎障害者(30mL/min未満)に本剤400mgを反復投与したときのCmaxは腎機能正常者よりも9%低く,AUC及びCminはそれぞれ19%及び96%高かったが,透析を施行している重度の腎障害者に透析を施行しなかったとき並びに投与2時間後に透析を施行したとき,Cmax及びAUCは腎機能正常者よりも約30~50%低かった。透析を施行していない腎機能障害患者に用量調節の必要はない(〈用法・用量に関連する使用上の注意〉の項参照)。
肝障害:
アタザナビルは主に肝臓で代謝を受けて消失する。中等度~重度の肝障害成人被験者(Child-Pugh B群14例及びC群2例)において400mg単回投与後の薬物動態を検討した結果,肝障害者のAUCは健康成人に比べて45%高かった。また,健康成人の半減期が6.4時間であるのに対し,肝障害者では12.1時間であった。したがって,中等度あるいは重度の肝障害患者についてはアタザナビルの血漿中濃度が上昇すると予想される(〈用法・用量に関連する使用上の注意〉の項参照)。
高齢者:
若年者(29例,18~40歳)と高齢者(30例,65歳以上)の健康成人において,単回投与時のCmax及びAUCは高齢者の方が17%高かった。両者に著しい違いはなく,薬物動態を基にした年齢による投与量の調整は推奨されない。
小児:
6~18歳のHIV感染患者にアタザナビルとリトナビルをそれぞれ体表面積換算で1日1回投与したときの定常状態におけるアタザナビルの薬物動態パラメータを表4に示す。
7. 薬物相互作用
アタザナビルは肝臓でCYP3A4により代謝される。アタザナビルはCYP3A4を不可逆的に阻害する。そのCYP3A4に対する阻害定数(Ki)は0.84~1.0μMである。また,UGT1A1を阻害し,そのKi値は1.9μMである。CYP3A4及びUGT1A1により代謝される治療域が狭い薬剤との併用は避けること(「併用禁忌」の項参照)。
アタザナビルはCYP2C8の阻害剤であり,Ki値は2.1μMである。アタザナビルはCYP1A2及びCYP2C9を競合的に阻害し,Ki値は12μM,Cmax/Ki値比は約0.25である。本剤はCYP1A2あるいはCYP2C9により代謝される薬物と薬物相互作用を発現する可能性が考えられる。臨床用量で得られる濃度でアタザナビルはCYP2C19あるいはCYP2E1を阻害しない。In vivoにおいて,アタザナビルは本剤自身の代謝を誘導せず,またCYP3A4で代謝される薬剤の代謝を促進しない。反復投与試験において,本剤は尿中の内因性6β-ヒドロキシコルチゾール/コルチゾール比を低下させ,CYP3A4を誘導しないことが示唆された。
CYP3A4活性を誘導する薬剤はアタザナビルのクリアランスを上昇させ,血漿中濃度を低下させる可能性がある。また,本剤とCYP3A4を阻害する他剤との併用投与によりアタザナビルの血漿中濃度が上昇する可能性がある。
本剤と併用の可能性のある他剤又は薬物動態学的相互作用の指標として一般に使用されている薬剤との薬物相互作用試験を実施した。併用投与がCmax,AUC及びCminに及ぼす影響を表5及び表6に示す。
表1. 健康成人にアタザナビル400mgを1日1回6日間食事とともに反復投与したときの定常状態の薬物動態
パラメータ 健康成人
(n=12)
Cmax(ng/mL)
幾何平均値(変動係数%) 6238(7)
Tmax(h)
中央