テアーゼ阻害作用によりHIVウイルスの構造蛋白(Gag-Pol)に影響を及ぼし,その結果,感染性を有する成熟ウイルスの産生を抑制する。
2. 抗ウイルス作用(in vitro試験)
末梢血単核細胞,マクロファージ,CEM-SS細胞及びMT-2細胞に感染させた各種HIV-1分離株におけるATVの抗ウイルス作用のEC50値は,ヒト血清非存在下で2~5nMであった。ATVは細胞培養試験において,HIV-1グループM サブタイプ A,B,C,D,AE,AG,F,G及びJの分離株に対して活性を示した。HIV-2分離株に対してはEC50値1.9~32nMの変動のある活性を示した。細胞培養試験において,ATVと非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI:デラビルジン,エファビレンツ及びネビラピン),PI(アンプレナビル,インジナビル,ロピナビル,ネルフィナビル,リトナビル及びサキナビル),逆転写酵素阻害薬(NRTI:アバカビル,ジダノシン,エムトリシタビン,ラミブジン,サニルブジン,テノホビル,ザルシタビン及びジドブジン),ウイルス感染治療薬であるアデホビル及びリバビリンのいずれかとの2剤併用の抗ウイルス活性試験では,併用薬剤間で拮抗作用は認められず,細胞毒性の増強もなかった。
3. 薬剤耐性
(1) 細胞培養試験:
細胞培養試験において,ATVに5ヵ月間曝露した場合,ATVに対する感受性が1/183~1/93に低下した3種の異なるウイルス株が得られた。これらのATV耐性にはHIV-1ウイルスのI50L,N88S,I84V,A71V及びM46Iのアミノ酸置換が関与していた。また,アミノ酸置換はプロテアーゼ開裂部位でも認められた。I50Lを有し,PI関連の他のメジャーなアミノ酸置換を含まない組み換えウイルスでは,細胞培養試験において増殖障害が認められ,また他のPI(アンプレナビル,インジナビル,ロピナビル,ネルフィナビル,リトナビル及びサキナビル)に対する感受性増大が認められた。ATV及びアンプレナビルの選択的耐性置換としてI50LとI50Vがそれぞれ認められたが,これらに交叉耐性はなかった。
(2) 治療経験のない患者での臨床試験:
1)
治療経験のないHIV感染患者にATV300mg1日1回+RTV100mg1日1回(ATV/RTV群)及びATV400mg1日1回(ATV群)のラミブジン+徐放性サニルブジン併用下における比較試験(AI424-089試験)。
(表12参照)
2)
治療経験のないHIV感染患者にATVの300mg1日1回+RTV100mgを投与した試験(AI424-138試験)。
ATV/RTVの96週間治療中にウイルス学的失敗(≧400copies/mL)を経験した患者あるいはウイルス量減少が基準値到達前に投与を中止した患者の血液サンプルについて遺伝子型及び表現型解析を実施した。解析数は39例(9%)であった。その結果,ATV/RTV治療グループにおいて,ウイルス学的失敗分離株の1例ではATVに対する感受性が1/56に低下し,L10F,V32I,K43T,M46I,A71I,G73S,I85I/V及びL90MのPI関連の置換が認められた。また,治療失敗分離株5例では,M184I(1例)又はM184V(4例)の置換を有するエムトリシタビン耐性が発現した。
3)
治療経験のないHIV感染患者にATVの400mgを1日1回投与した試験。
ATV400mgのみの治療でウイルス学的失敗を経験し,耐性となった患者からの分離株では多くの場合I50Lの置換が認められ(ATV平均治療期間50週間),またA71Vの置換を合併していた。また,1ヵ所以上のPI関連の置換(例えばV32I,L33F,G73S,V82A,I85V又はN88S)がI50Lと同時にあるいはI50Lなしに発現していた。未治療患者において,主要なPI関連置換を有さずにI50Lの置換のみが発現したウイルス分離株は,ATVに対する表現型耐性を示したが,他のPI(アンプレナビル,インジナビル,ロピナビル,ネルフィナビル,リトナビル及びサキナビル)に対しては細胞培養試験で感受性の保持が観察された。
(3) 治療経験を有する患者での臨床試験:
治療経験を有するHIV-1患者にATV又はATV/RTVを投与した試験。ウイルス学的失敗を経験した患者から分離したほとんどのATV耐性分離株では,複数のPIに対する耐性と関連したアミノ酸置換が発現し,PIに対する感受性低下が認められた。ATV300mgとRTV100mgの1日1回(同時にテノホビルと1種のNRTI)治療で失敗した患者のウイルス分離株において,最も一般的に認められた置換は,V32I,L33F/V/I,E35D/G,M46I/L,I50L,F53L/V,I54V,A71V/T/I,G73S/T/C,V82A/T/L,I85V及びL89V/Q/M/Tであった。その他の置換として,E34K/A/Q,G48V,I84V,N88S/D/T,及びL90Mが10%未満の患者分離株で認められた。概してATV又はATV/RTV投与開始前の患者のHIV-1ウイルスにI50Lの置換を含む複数のPI耐性置換が存在する場合には,ATVにも耐性が生じた。I50L置換は,治療経験を有する患者にATVの長期投与後にウイルス学的失敗を経験した患者でも確認されている。ATV治療によりプロテアーゼ開裂部位の変化も生じたが,これらの出現はATV耐性の程度とは相関しなかった。
4. 交差耐性
PIの治療経験を有する患者にATVを投与した臨床試験において,ATV投与前にウイルス分離株の表現型及び遺伝子型解析を実施した結果,複数のPIに交差耐性を示し,ATVに対しても交差耐性を示した。I84V又はG48V置換を有する分離株の90%以上が,ATVに耐性を示した。また,L90M,G73S/T/C,A71V/T,I54V,M46I/LあるいはV82に置換を有する分離株の60%以上がATV耐性であり,更に他の置換に加えてD30Nを有する分離株の38%がATV耐性であった。ATVに耐性を示す分離株は他のPIに対しても交差耐性を示し,インジナビル,ロピナビル,ネルフィナビル,リトナビル及びサキナビルに対しては90%以上の分離株が,また,アンプレナビルに対しては80%が耐性を示した。治療経験を有する患者において,PI耐性に関連するアミノ酸置換に加えてI50Lを発現したPI耐性ウイルス分離株は,他の複数のPIに対しても交差耐性を示した。
表14. 96週時におけるウイルス学的失敗例aの集計:ATV耐性によるウイルス学的失敗数及びウイルス学的失敗分離株数
ATV/RTV群
(n=95) ATV群
(n=105)
96週時ウイルス学的失敗数(≧50copies/mL) 15(16%) 34(32%)
遺伝子型及び表現型変化を有するウイルス学的失敗数 5&nbs