症、非ST上昇型心筋梗塞、又はST上昇型心筋梗塞)患者を対象に、チカグレロル90mg1日2回(初回負荷用量180mg)の心血管性イベント発生抑制効果をクロピドグレル75mg1日1回(初回負荷用量300mg)と比較する二重盲検無作為化並行群間有効性及び安全性試験であり、合計18,624例の患者が無作為割付けされた。有効性の複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、及び脳卒中)を用いて心血管性イベント発生予防効果を検討した結果、イベント発生例数はチカグレロル864/9,333例、クロピドグレル1,014/9,291例であった。12カ月時点でのイベント発生率は、チカグレロル9.8%、クロピドグレル11.7%であり、チカグレロルは12カ月にわたる心血管性イベント発生予防効果において、クロピドグレルと比較して統計学的に有意に優れていた(相対リスク減少16%、絶対リスク減少1.9%、NNT=54)。重大な出血の発現率において、チカグレロルとクロピドグレルで顕著な差は認められなかったが(チカグレロル11.6%、クロピドグレル11.2%、ハザード比1.04、95%信頼区間0.95~1.13)、重大な出血及びその他の止血又は治療を要する出血が含まれる出血性イベントの発現率は、クロピドグレルと比較してチカグレロルで統計学的に有意に高かった(チカグレロル16.1%、クロピドグレル14.6%、ハザード比1.11、95%信頼区間1.03~1.20)。
PLATO試験に割付けられた18,624例中13,408例の患者で無作為割付時に侵襲的治療が予定されていた。侵襲的治療予定例13,408例における有効性を検討した結果、イベント発生例数はチカグレロル569/6,732例、クロピドグレル668/6,676例であった。12カ月時点でのイベント発生率は、チカグレロル8.9%、クロピドグレル10.6%であった(相対リスク減少16%、絶対リスク減少1.7%)30)。
3. 国際共同第III相試験(PEGASUS試験)
PEGASUS試験は、心筋梗塞の既往歴(1~3年前)に加えてアテローム血栓症のリスク因子(65歳以上、薬物療法を必要とする糖尿病、2度目の心筋梗塞、血管造影で確認された多枝病変を有する冠動脈疾患、又は末期でない慢性の腎機能不全)を1つ以上有し、基礎療法としてアスピリンを併用する患者を対象にチカグレロルの心血管性イベント発生の予防効果をプラセボと比較する二重盲検無作為化並行群間試験であり、合計21,162例(うち日本人903例)が無作為割付けされた。症例内訳は、チカグレロル90mg1日2回7,050例、チカグレロル60mg1日2回7,045例、プラセボ7,067例であり、投与期間は最長48カ月(中央値チカグレロル90mg28.1カ月、チカグレロル60mg29.2カ月、プラセボ30.3カ月)であった。有効性の複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、及び脳卒中)で評価した、36カ月時点の心血管性イベント発生予防効果において、プラセボと比較してチカグレロル60mgは統計学的に有意に優れていた(チカグレロル60mg7.8%、プラセボ9.0%、相対リスク減少16%、絶対リスク減少1.27%)。日本人集団における心血管性イベント発生率は、チカグレロル60mg3.3%、プラセボ4.4%であった(ハザード比0.72、95%信頼区間0.29~1.79)。
重大な出血の発現率において、チカグレロル60mgはプラセボと比較して有意に高かった(チカグレロル60mg2.3%、プラセボ1.1%、ハザード比2.32、95%信頼区間1.68~3.21)。日本人集団における重大な出血の発現率は、チカグレロル60mg4.5%、プラセボ1.2%であった31),32)。
薬効薬理
1. 作用機序
チカグレロルは、アデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12受容体に対する選択的且つ可逆的な拮抗薬であり、ADP誘発血小板凝集を阻害する33)。チカグレロルは、P2Y12受容体のADP結合部位とは異なる部位に結合し、血小板P2Y12受容体のシグナル伝達を阻害する33),34)。また、チカグレロルは受動拡散型ヌクレオシドトランスポーター-1(ENT-1)を阻害し、局所アデノシン濃度を上昇させる作用を有する。チカグレロルのENT-1阻害によりアデノシン半減期が延長し、アデノシン局所濃度が上昇することで局所におけるアデノシン作用が増強する可能性がある35),36),37)。
2. in vitro試験
チカグレロルは、ヒト洗浄血小板、多血小板血漿及び全血において、ADP誘発血小板凝集を強力に阻害した38),39),40)。
3. in vivo試験
イヌの大腿動脈周期的血栓形成モデルにおいて、チカグレロルはin vivoでの血栓形成及びex vivoで測定したADP誘発血小板凝集を阻害した41),42)。
4. 血小板凝集阻害作用
(1) 健康被験者
健康被験者を対象とした単回漸増投与試験において、日本人及び白人健康被験者各20例にチカグレロル50~600mg又はプラセボを単回経口投与し、血小板凝集阻害(IPA〔最終凝集率を測定、以下同様〕)を日本人と白人被験者で比較した。IPAは、日本人及び白人被験者ともに、投与2時間後に50mg投与では約80%、100mg以上の投与では90%超であり、投与4時間後には100mg以上の投与で95%以上の最大値に達した3)。(承認外用量を含む)
健康被験者を対象とした反復投与試験において、日本人及び白人健康被験者各36例にチカグレロル100mg、チカグレロル300mg又はプラセボを1日2回反復経口投与(ただし、白人被験者の1例はチカグレロル100mgの初回投与のみで試験を中止)した。チカグレロル100mg及び300mg単回投与後、IPAが最大値に達するまでの時間の中央値は、日本人被験者で2時間(100mg及び300mg)、白人被験者で4時間(100mg)及び2時間(300mg)であった。100mg単回投与後のIPAの最大値の平均は日本人被験者で99%、白人被験者で87%、300mg単回投与後では日本人及び白人被験者ともにほぼ100%に達した。100mg反復投与後の定常状態におけるIPAの最大値の平均は、日本人被験者で99%、白人被験者で85%、300mg反復投与後では日本人被験者で100%、白人被験者で97%であった3)。(承認外用量)
(2) クロピドグレル反応例及び非反応例におけるチカグレロルの血小板凝集阻害作用
クロピドグレル反応例又は非反応例であることが事前に確認された安定期の冠動脈疾患患者98例を対象とした第II相試験で、アスピリンによる基礎療法下でチカグレロルの血小板凝集阻害作用をクロピドグレルと比較した。患者をクロピドグレル群(初回負荷用量600mg投与後75mg1日1回を2週間投与)又はチカグレロル群(初回負荷用量180mg投与後、90mg1日2回を2週間投与)に無作為割付けし、ウォッシュアウト期間なしの2期クロスオーバーのデ