,結合型エストロゲン単独投与群では,乳癌になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意差はない(ハザード比:0.80)との報告がある3,4).
(2)
英国における疫学調査(Million Women Study(MWS))の結果,卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤を併用している女性では,乳癌になる危険性が対照群と比較して有意に高くなり(2.00倍),この危険性は,併用期間が長期になるに従って高くなる(1年未満:1.45倍,1~4年:1.74倍,5~9年:2.17倍,10年以上:2.31倍)との報告がある5).
4. HRTと冠動脈性心疾患の危険性
米国におけるWHI試験の結果,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では,冠動脈性心疾患の危険性がプラセボ投与群と比較して高い傾向にあり,特に服用開始1年後では有意に高くなる(ハザード比:1.81)との報告がある6).並行して行われた子宮摘出者に対する試験の結果,結合型エストロゲン単独投与群では,冠動脈性心疾患の危険性がプラセボ投与群と比較して有意差はない(ハザード比:0.91)との報告がある3).
5. HRTと脳卒中の危険性
米国におけるWHI試験の結果,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では,脳卒中(主として脳梗塞)の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.31)との報告がある7).並行して行われた子宮摘出者に対する試験の結果,結合型エストロゲン単独投与群では,脳卒中(主として脳梗塞)の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.37)との報告がある3,8).
6. HRTと認知症の危険性
米国における65歳以上の閉経後女性を対象とした無作為化臨床試験(WHI Memory Study(WHIMS))の結果,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では,アルツハイマーを含む認知症の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:2.05)との報告がある9).並行して行われた子宮摘出者に対する試験の結果,結合型エストロゲン単独投与群では,アルツハイマーを含む認知症の危険性がプラセボ投与群と比較して有意ではないが,高い傾向がみられた(ハザード比:1.49)との報告がある10).
7. HRTと卵巣癌の危険性
(1)
卵胞ホルモン剤を長期間使用した閉経期以降の女性では,卵巣癌になる危険性が対照群の女性と比較して高くなるとの疫学調査の結果が報告されている11,12,13).
(2)
米国におけるWHI試験の結果,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群において,卵巣癌になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意ではないが,高い傾向がみられた(ハザード比:1.58)との報告がある14).
8.
卵胞ホルモン剤の長期投与により,肝腫瘍が発生したとの報告がある.
9.
高用量の卵胞ホルモン剤の投与により,プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)が増大したとの報告がある.
10. HRTと胆のう疾患の危険性
米国におけるWHI試験の結果,結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群において,胆のう疾患になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.59)との報告がある.並行して行われた子宮摘出者に対する試験の結果,結合型エストロゲン単独投与群では,胆のう疾患になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.67)との報告がある15).
薬物動態
単回投与16)
閉経後の健康女性10例に,エストラジオール(E2)1.0mgを単回経口投与したとき,E2は経口投与後2時間以内に速やかに吸収され,血漿中E2濃度は投与後6~8時間後に血漿中最大薬物濃度(Cmax)に達した.その後12時間後までその血漿中濃度はほぼ一定であった.血漿中E2濃度は投与48時間後には,ほぼ投与前値まで減少した.また,血漿中エストロン(E1)濃度の経時的変化はE2で認められたものと類似していた.
(表1参照)
反復投与17)
閉経後の健康女性9例にエストラジオール(E2)1.0mgを1日1回28日間反復経口投与したとき,血漿中E2濃度は投与開始後第17日目までに定常状態に達し,定常状態のE2の血漿中平均トラフ濃度は約30pg/mLであった.28日間反復経口投与した場合のE2の蓄積係数は2.2であった.血漿中エストロン(E1)濃度は,血漿中E2の6~8倍の濃度で,E2と類似した血漿中濃度推移を示した.
(表2参照)

E2 1.0mgを1日1回28日間反復経口投与したときの血漿中E2濃度の推移
更年期障害及び卵巣欠落症状を有する患者にエストラジオール(E2)0.5mg及び1.0mgを1日1回,8週間反復経口投与したとき,平均血清中E2濃度は0.5mg投与群(72例)で投与前値(3.10pg/mL)から投与8週後(又は中止時)で21.41pg/mL,1.0mg投与群(71例)で投与前値(2.25pg/mL)から44.95pg/mLに上昇した18).
表1 E2 1.0mgを単回経口投与したときの血漿中E2及びE1の薬物動態学的パラメータ
測定物質 |
Cmax(pg/mL) |
tmax(h) |
AUC(0-48h)
(ng・h/mL) |
t1/2(h) |
E2(10例) |
37.2±13.0 |
8.1±6.9 |
1.01±0.49 |
23.9±10.7 |
E1(10例) |
193.1±72.0 |
4.8±2.5 |
4.22±1.55 |
17.2±6.8 |
算術平均値±標準偏差
Cmax:最高血漿中濃度,tmax:最高血漿中濃度到達時間,AUC:血漿中濃度曲線下面積,t1/2:消失半減期
表2 E2 1.0mgを反復経口投与したときの血漿中E2及びE1の薬物動態学的パラメータ