ラスツズマブ エムタンシンの血清中濃度推移は以下のとおりであった。Cmax及びAUCinfはいずれも投与量の増加に応じて増加した。CL及びVssは投与群間で同様の値の範囲内にあった。t1/2は投与群間で大きく異ならなかった。以上のことから、血清中トラスツズマブ エムタンシンの薬物動態は検討した範囲内で線形性を示した。
注7)承認された用法・用量は3.6mg/kg(体重)を3週間間隔投与である。
単回投与時のトラスツズマブ エムタンシン濃度推移
平均値±標準偏差
(表)
(2) 反復投与時(日本人における成績)2)
日本人のHER2陽性進行・再発乳癌患者32例に本剤3.6mg/kgを3週間間隔で90分間(±10分、忍容性が確認された場合、2回目以降30分間(±10分)に短縮可能)点滴静注したときのトラスツズマブ エムタンシンの血清中濃度推移は以下のとおりであった。血清中トラスツズマブ エムタンシンの蓄積はほとんど認められなかった。
反復投与時の血清中トラスツズマブ エムタンシンのトラフ濃度及びピーク濃度
平均値±標準偏差(n=2~28)
2. 分布2,3,4)
日本人のHER2陽性進行・再発乳癌患者に本剤3.6mg/kgを点滴静注したときのVssの平均値は54.9mL/kg(30例)であり、ほぼ血漿容量に相当した。
本剤を構成するDM1をヒト血漿に20ng/mLの濃度で添加した際の血漿蛋白結合率は93.2%であった。
In vitro試験から、DM1はP-糖蛋白質(P-gp)の基質であることが示唆された。
3. 代謝2,5)
トラスツズマブ エムタンシンは主として細胞内のリソゾームにより異化を受けると推測される。血漿中代謝物として、DM1及びMCC-DM1注8)がトラスツズマブ エムタンシンと比較して低い濃度で検出された。日本人のHER2陽性進行・再発乳癌患者に本剤3.6mg/kgを点滴静注したときのサイクル1における血漿中DM1及び血漿中MCC-DM1はともに投与後30分にピーク値を示し、その値は各々3.79±0.950ng/mL(28例)、8.65±3.03ng/mL(28例)であった。Lys-MCC-DM1注9)はほとんど検出されなかった。ヒト肝ミクロソーム等を用いたin vitro試験で、DM1は主としてCYP3A4及び一部CYP3A5で代謝されることが示唆された。
注8)MCC-DM1:DM1とMCCリンカーが結合した状態で遊離した代謝物
注9)Lys-MCC-DM1:リシン残基とともにMCC-DM1が遊離した代謝物
4. 排泄
(参考)動物実験の結果6)
DM1を3H標識したトラスツズマブ エムタンシンをラットに単回静脈内投与したとき、DM1、Lys-MCC-DM1及びMCC-DM1を含む異化代謝物は主に糞中に排泄され(50%)、尿中への排泄は少なかった(8.2%)。
5. **肝機能障害患者での薬物動態(外国人における成績)7)
HER2陽性進行・再発乳癌のうち、肝機能障害患者18例[軽度(Child-Pugh分類A):10例、中等度(Child-Pugh分類B):8例]及び正常肝機能患者10例に本剤3.6mg/kgを3週間間隔で点滴静注したとき、トラスツズマブ エムタンシンのAUCの平均値は、軽度及び中等度肝機能障害患者で、サイクル1では正常肝機能患者と比べそれぞれ38%及び67%低く、サイクル3では正常肝機能患者と同程度であった。また、DM1、MCC-DM1、Lys-MCC-DM1は、肝機能障害患者と正常肝機能患者とで同程度であり、いずれもトラスツズマブ エムタンシンと比べ低い濃度で検出された。
薬物動態の表
単回投与時のトラスツズマブ エムタンシンの薬物動態パラメータ
投与量
(mg/kg) Cmax
(μg/mL) AUCinf
(μg・day/mL) t1/2
(day) CL
(mL/day/kg) Vss
(mL/kg)
1.8(n=1) 35.3 141 2.39 12.9 57.1
2.4(n=4) 43.4±15.2 204±70.5 2.88±0.317 13.4±6.34 67.6±20.3
3.6(n=5) 82.0±10.0 346±41.1 3.74±1.15 10.6±1.26 59.1±6.62
平均値±標準偏差
臨床成績
<日本人における成績>
HER2陽性進行・再発乳癌患者を対象とした第II相臨床試験(JO22997試験)2)
トラスツズマブ及び化学療法既治療のHER2陽性の進行・再発乳癌を対象として、本剤3.6mg/kgを3週間間隔で73例に投与した。奏効率は38.4%であった。
*<外国人における成績>
HER2陽性進行・再発乳癌患者を対象とした第III相ランダム化比較試験(TDM4370g試験[EMILIA試験])8)
タキサン系薬剤及びトラスツズマブ既治療のHER2陽性進行・再発乳癌を対象に、カペシタビン+ラパチニブ(Cap+Lap)の併用療法を対照群として、本剤3.6mg/kgを3週間間隔で490例に投与した(有効性評価例は495例)。主要評価項目である独立判定委員会評価による無増悪生存期間の最終解析及び全生存期間の中間解析(目標イベント数である632イベントのうち、331イベントが発生した時点)について、Cap+Lap群に対する本剤群の有意な延長が認められた。
*TDM4370g試験の無増悪生存期間のKaplan-Meier曲線
*TDM4370g試験の全生存期間のKaplan-Meier曲線
薬効薬理
本剤は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブとチューブリン重合阻害作用を有するDM1を、リンカーを介して結合させた抗体薬物複合体である。
(1) 抗腫瘍効果9,10,11)
本剤は、in vitroにおいて、トラスツズマブに感受性のHER2陽性のヒト乳癌由来細胞株(SK-BR-3、BT-474)に対し、トラスツズマブよりも強い増殖抑制作用を示した。また、トラスツズマブに非感受性のHER2陽性のヒト乳癌由来細胞株(KPL-4、HCC1954、BT-474EEI)に対して増殖抑制作用を示した。さら