(2) 303試験:安定した基礎療法(Stable Background Therapy)に本剤又はラミブジンを併用した比較試験3)
試験参加前にラミブジンを含む抗レトロウイルス薬の3剤併用療法(ラミブジン+サニルブジン又はジドブジン+プロテアーゼ阻害薬又は非核酸系逆転写酵素阻害薬)を12週間以上受けており,血漿中HIV-1 RNA量が<400copies/mLの患者440例を対象に,ラミブジン(150mg1日2回投与)を継続する投与群,又はラミブジンを本剤(200mg1日1回投与)へ変更する投与群のいずれかに1:2の比率で患者を無作為に割り付けて,48週間投与の多施設非盲検試験で比較した。なお,すべての患者が各自の安定した基礎療法(Stable Background Therapy:サニルブジン又はジドブジン+プロテアーゼ阻害薬又は非核酸系逆転写酵素阻害薬)を継続した。
患者の平均年齢は42歳(範囲22~80歳),86%が男性であり,白人は64%,アフリカ系アメリカ人は21%,ヒスパニックは13%であった。試験開始時の平均CD4リンパ球数は527cells/mm3(範囲37~1,909cells/mm3),血漿中HIV-1 RNA量の中央値は1.7log10copies/mL(範囲1.7~4.0log10copies/mL)であった。抗レトロウイルス薬による前治療の継続期間の中央値は27.6ヵ月であった。試験開始後48週の結果を表5に示す。
試験開始後48週のCD4リンパ球数の平均増加量は,本剤投与群で29cells/mm3,ラミブジン投与群で61cells/mm3であった。また,試験開始後48週までにCDC分類C症状を新たに発現した症例は,本剤投与群で2例(0.7%),ラミブジン投与群で2例(1.4%)であった。
(3) 臨床薬理試験注9)
2つの臨床試験で101例の患者に1日あたり25~400mgのエムトリシタビンを単独療法として10~14日間投与し,エムトリシタビンのin vivo活性を評価した。用量依存的な抗ウイルス作用が認められ,血漿中HIV-1 RNA量の試験開始時からの減少の中央値は,1日投与量25mg(1日1回投与)~400mg(200mg1日2回投与)で1.3~1.9log10copies/mLであり,200mg1日1回投与で1.6~1.9log10copies/mLであった。
注9)本剤の承認された1日用量は200mgである。
臨床成績の表
表4 301A試験臨床試験結果(48週評価)
結果 本剤投与群
(N=286) サニルブジン投与群
(N=285)
有効例注3):HIV-1 RNA量<400copies/mL 81% 68%
有効例注3):HIV-1 RNA量<50copies/mL 78% 59%
無効例注4) 3% 11%
死亡例 0% <1%
有害事象による中止例 7% 13%
その他の理由による中止例注5) 9% 8%
注3) 血漿中HIV-1 RNA量が<400copies/mL(又は<50copies/mL)に至り試験開始後48週まで維持していた症例
注4) 血漿中HIV-1 RNA量が<400copies/mLに至らなかった症例及び至った後に再上昇した症例
注5) 患者追跡不能例,患者申出による脱落例,服薬不良例,プロトコール不遵守例など
表5 303試験臨床試験結果(48週評価)
結果 本剤投与群
(N=294) ラミブジン投与群
(N=146)
有効例注6):HIV-1 RNA量<400copies/mL 77% 82%
有効例注6):HIV-1 RNA量<50copies/mL 67% 72%
無効例注7) 7% 8%
死亡例 0% <1%
有害事象による中止例 4% 0%
その他の理由による中止例注8) 12% 10%
注6) 血漿中HIV-1 RNA量が<400copies/mL(又は<50copies/mL)に至り試験開始後48週まで維持していた症例
注7) 血漿中HIV-1 RNA量が<400copies/mLに至らなかった症例及び至った後に再上昇した症例
注8) 患者追跡不能例,患者申出による脱落例,服薬不良例,プロトコール不遵守例など
薬効薬理
1. 作用機序
エムトリシタビンは,シチジンの合成ヌクレオシド誘導体であり,細胞内酵素によりリン酸化されエムトリシタビン5'-三リン酸となる。エムトリシタビン5'-三リン酸はHIV-1逆転写酵素の基質であるデオキシシチジン5'-三リン酸と競合すること,及び新生ウイルスDNAに取り込まれた後に,DNA鎖伸長を停止させることにより,HIV-1逆転写酵素の活性を阻害する。哺乳類のDNAポリメラーゼα,β,ε及びミトコンドリアDNAポリメラーゼγに対するエムトリシタビン5'-三リン酸の阻害作用は弱い。
2. 抗ウイルス作用(in vitro)4)
ヒトリンパ芽球様細胞株,MAGI-CCR5細胞株及び末梢血単核細胞を用いて,HIV-1の実験室株及び臨床分離株に対するエムトリシタビンの抗ウイルス活性を評価した。エムトリシタビンの50%阻害濃度(IC50値)は,0.0013~0.64μM(0.0003~0.158μg/mL)の範囲であった。
3. 薬剤耐性
In vitroにおいてエムトリシタビン耐性HIV-1株を得た。これらの分離株の遺伝子型解析により,エムトリシタビンに対する感受性の低下と,HIV-1逆転写酵素遺伝子のM184V/I変異との間に関連性が認められた。
エムトリシタビンを単独投与又は他の抗レトロウイルス薬と併用投与した患者より,エムトリシタビン耐性HIV-1株が検出されている。抗レトロウイルス薬による治療を未経験の患者を対象とした臨床試験では,ウイルス学的失敗が認められた患者の35%から分離されたウイルスで,M184V/I変異が認められた。
4. 交差耐性
これまでに一部の核酸系逆転写酵素阻害薬の間には交差耐性が認められている。エムトリシタビン耐性株(M184V/I)はラミブジン及びザルシタビンに対して交差耐性を示したが,ジダノシン,サニルブジン,テノホビル,ジドブジン及び非核酸系逆転写酵素阻害薬(デラビルジン,エファビレンツ及びネビラピン)に対してはin vitroで