。ガンシクロビル濃度が1~10mg/mLにおいて、ガンシクロビルの透過に飽和が認められなかったことから、胎盤通過のメカニズムは主として単純拡散によるものと考えられる。
薬物動態
(参考)外国人による成績である。1)
(1) 薬物動態
腎機能正常患者にガンシクロビル5mg/kgを1時間点滴静注時の平均血中半減期は約3.6時間、全身クリアランスは4.20±2.13mL/min/kgであった。
(2) 代謝・排泄
患者に3日間で総量1,800~2,550mgを点滴静注したときの3日間の尿中回収率は37~126%であった。
(3) 腎機能障害患者における動態
腎機能障害患者に5mg/kgを1時間点滴静注時の平均血中半減期は約11.5時間、全身クリアランスは1.20±0.87mL/min/kgであった。
臨床成績
1. 国内延べ15施設において17例について実施された臨床試験2)
免疫機能の低下した患者(後天性免疫不全症候群、臓器移植、悪性腫瘍等)に発症した重篤なサイトメガロウイルス感染症に対する感染部位別有効率は、網膜炎100%(8/8)、肺炎66.7%(4/6)、腎症100%(2/2)、大腸炎、肝炎、髄膜炎がそれぞれ100%(1/1)であった。
2. 外国で実施された臨床試験3)
米国で実施された314例の免疫低下時における重篤なサイトメガロウイルス感染症に対する感染部位別有効率は、網膜炎84%(91/108)、大腸炎83%(35/42)、肺炎72%(26/36)及びその他の感染症(中枢神経、全身性など)61%(11/18)であった。
薬効薬理
1. 抗ウイルス作用4~9)
(1)
ヒトサイトメガロウイルスの標準株(AD169, Towne, Major, BT1943, Davis)に対するin vitroにおけるガンシクロビルのIC50値は、0.4~7.0μmol/Lであった。また、臨床分離株(後天性免疫不全症候群、ヒトサイトメガロウイルス単核症及び腎移植患者等からの分離株)に対するin vitroでのガンシクロビルのIC50値は、0.08~14μmol/Lであった。
(2)
マウスにマウスサイトメガロウイルスを接種し、感染後6時間目より、1~50mg/kgを1日2回、5日間皮下投与した実験では、ガンシクロビル投与群の生存率は25mg/kg以上の用量で75%以上であったが、対照(生理食塩液)群では10%であった。
2. 作用機序10~12)
ガンシクロビルはサイトメガロウイルス感染細胞内においてウイルス由来のプロテインキナーゼ(UL97)にリン酸化されてガンシクロビル一リン酸になり、さらにウイルス感染細胞に存在するプロテインキナーゼにリン酸化されて活性型のガンシクロビル三リン酸になる。ガンシクロビル三リン酸はウイルスDNAポリメラーゼの基質であるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)の取り込みを競合的に阻害し、ガンシクロビル三リン酸がDNAに取り込まれ、ウイルスDNAの延長を停止又は制限することによってDNA鎖の複製を阻害する。
3. 薬剤耐性13~18)
免疫機能の低下した患者に発症したサイトメガロウイルス感染症の治療のためにガンシクロビルを点滴静注あるいは経口で長期間投与した場合、耐性ウイルスが検出される場合がある。耐性ウイルスには、ガンシクロビルのモノリン酸化に関与するウイルスキナーゼ(UL97)遺伝子又はウイルスDNAポリメラーゼ(UL54)遺伝子の変異がみられる。UL97遺伝子が変異したウイルスはガンシクロビルに対してのみ耐性を示し、一方、UL54遺伝子が変異したウイルスは、類似の作用機序を持つ他の抗ウイルス剤にも交差耐性を示す。
サイトメガロウイルス綱膜炎と診断されたAIDS患者にガンシクロビルが点滴静注され、3ヵ月以内の投与では耐性ウイルスは検出されなかったが、3ヵ月以上の投与では7.6%の患者に耐性ウイルスが検出された。
固形臓器移植患者に移植後10日以内から100日までガンシクロビルが経口投与され、移植後100日目に採血できた103名の血液サンプルから分離した多形核白血球について、サイトメガロウイルスの遺伝子型変異解析を実施した結果、2名にUL97耐性変異体(1.9%)が検出された。また、移植後12ヵ月までにサイトメガロウイルス感染症が疑われた患者33名の内、2名にUL97耐性変異体(6.1%)が検出されたが、UL54耐性変異体は検出されなかった。
有効成分に関する理化学的知見
○一般名
ガンシクロビル(Ganciclovir)
○化学名
9-[[2-hydroxy-1-(hydroxymethyl)ethoxy]methyl]guanine
○構造式
○分子式
C9H13N5O4
○分子量
255.23
○性状
・ 白色~灰白色又は淡黄白色の結晶性の粉末である。
・ 水に溶けにくく、メタノール又はエタノール(95)に極めて溶けにくく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。
・ 希塩酸又は希水酸化ナトリウム試液にやや溶けにくく、0.005mol/Lリン酸二水素アンモニウム溶液に溶けにくい。
・ 吸湿性である。
取扱い上の注意
<注意>
本剤は注射用水で溶解後はpH約11と強アルカリ性を呈することから、取扱い時にはゴム手袋、防護メガネ等の着用が望ましい。皮膚に本溶液が付着した場合には、石鹸で洗い、水で完全に洗い落とすこと。眼に本溶液が入った場合には、15分間水で洗眼すること。また、本剤は発がん性を有する可能性があるため、繰り返し直接手で触れたり、吸入したり又は眼の中へ入れないように十分に注意すること。
包装
デノシン点滴静注用500mg:500mg×1バイアル
主要文献及び文献請求先
主要文献
1)
Sommadossi, J. P. et al.:Rev. Infect. Dis. 1988; 10:507-514
2)
正岡 徹 他: 臨床とウイルス 1988; 16(4):523-543
3)
Buhles, W. C. et al.: Rev. Infect. Dis. 1988; 10(S3):495-506
4)
Cheng, Y. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1983; 80:2767-2770
5)
Freitas, V. R. et al.:Antimicrob. Agents. Chemother. 1985; 28(2):240-245
6)
Plotkin, S. A. et al.:J. Infect. Dis. 1985; 152(4):833-834
7)
Field, A. K. et al.:Proc. N